1/10ページ目 7月26日 6:00 鳴海市 桐野家 開いたカーテンの先には、差し込む朝日と快晴の空。管理局勤め最初の朝は、悪くない天候だった。 結城はベッドのほうを見る。 そこにはハルカが、寝息をたてながら眠っていた。どうやら朝は苦手らしい。まだ起きそうな様子はない。 「まぁ、今のうちに着替えちまうか」 さっさと着替え、昨日のうちに準備しておいた荷物を確認する。 そこで取り出したのは、メタリックブルーの石。形自体は、どこにでも落ちていそうな石だが、その輝きからは、何かを感じさせるものがあった。 これが、結城のデバイスである。 父親から受け継いだもの。言い方を変えれば“形見”ということになる。 そのデバイスは、今は何の反応もなく、静かに待機していた。 このデバイスも、結城が管理局入りするきっかけになったもの。 父親のように、このデバイスで助けられる人がいるのなら、自分も誰かの力になりたい。 そんなきっかけをくれた、大切なデバイスだ。 そのデバイスを、結城はポケットにしまうと、時計を見た。 「そろそろかな」 針は6時20分を指している。 なのは達と7時半に公園で集合の約束をしてあるため、そろそろハルカを起こさないとまずい。 結城は、ハルカの体を揺すってなんとか起こそうとする。 「ハルカ、もう起きてくれっ」 少しした後、ようやくその目が開いた。 「……んぅ?」 ハルカはぼーっとした様子でゆっくり体を起こす。 どうやら、まだ頭が働いていないらしい。 5分くらいぼんやりしたあとで、ようやくベッドから降りた。 「おはよう……結城……」 「あぁ、おはよう。そろそろ出発するから、準備をしてくれ」 「ん……」 のそのそと歩き、昨日と同じように結城にくっついた。 結城は頭をぽりぽりとかく。 苦笑して、 「あのー・・・、準備してほしいのですが・・・」 と言った。 が、ハルカは首を横に振る。 「準備するもの、ない……」 「あ、そうか……」 結城はハルカが倒れていたのを思い出した。 特に荷物も持っていなかったし、唯一の持ち物と言えば、あのデバイスだけだ。 確かに用意するものはないに等しい。 となれば、後はすることは一つ。 「なら、目覚ますために、顔洗いに行くか」 「ん……」 こくりとうなずくハルカ。 結城はハルカを連れて、部屋を出た。 「じゃあ、いってきます」 7時、結城とハルカは玄関にいた。 結城は靴を履き終え、もたつくハルカを待った。 やがて、靴ひもを結び終わったハルカが立ち上がるのと同時に、その扉を潜ろうとする。 そんな結城を、見送っていた里見が止めた。 「結城」 「ん? 何、母さん?」 振り向いた結城を、突然里見はそっと抱く。 普段とは違った里見の態度に、結城は多少あわてながらも、嫌がってはいなかった。 「母さん……?」 「無事に、帰ってきなさいね」 夏休み明け前には戻ってくるが、それでも一か月ほど家を留守にすることになる。 それに、“万が一のこと”もある。二度と戻れないかもしれない。 やはり母親は自分の子が心配になるものだ。 夫を失ったことに対するトラウマもきっとあるのだろう。 この子もいなくなってしまうのではないか、という、そんな不安が。 全く――普段はあれだけからかうようなことを言ってくれて。 それでも、結城にとっても、里見は唯一の家族。 不安には、させたくなかった。 だから。 「大丈夫だよ」 はっきりと、その一言を里見に言った。 その言葉を聞いた里見は、ゆっくりと離れる。 「……うんっ。じゃ、いってらっしゃい」 明るい表情だった。 「いってきます」 「ハルカちゃんも、またね」 「ん」 こくんと頷くハルカを見て、里見は微笑んだ。 結城は扉を開ける。ハルカを連れて、家を出た。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
w友達に教えるw [編集] 無料ホームページ作成は@peps! |